牛の細胞を培養して作られた世界初の「人工ハンバーグ」が5日、ロンドンでの記者会見でお披露目されました。科学者らは「増大する食料需要に対応するための技術」になり得ると意義を強調しています。
この人工肉の「試験管バーガー」を製作したのは、オランダ・マーストリヒト大学のマーク・ポスト教授ら。牛の筋肉組織から採取した幹細胞を栄養液に入れ、数週間かけて肉片となるまで培養しており、筋線維は2万本。赤い根菜のビーツの汁で色付けされ、パン粉や卵を混ぜ合わせて調理されたハンバーグは140グラム。製作費は25万ユーロ(約3260万円)を超えています。
会見では2人の料理専門家が試食し、それぞれ「肉に近い味だが、味わいに欠ける」「(普通のハンバーグと)風味が異なる」とコメントしました。
試食係の1人に選ばれた料理記者ジョシュ・ショーンウォルド氏は「動物タンパク質ケーキ」の様だと表現し、ケチャップやハラペーニョなどと一緒に試してみたいと語りました。
製造方法
培養肉の開発に携わったポスト教授も、味を手放しで称賛することには消極的で、「非常に良いスタートだ」と言うにとどめました。ポスト氏は「人造肉バーガー」について、環境的にも経済的にも負荷の大きい畜産に依存しない肉の選択肢を示すことが狙いだと語っています。
世界保健機関(WHO)によると、1997~99年に年間2億1800万トンだった食肉生産は、2030年までには3億7600万トンに増えるものの、需要はそれを上回って伸びる見通し。また、国連の食糧農業機関(FAO)は2006年の報告書で、工業型農業が気候変動や大気汚染、土壌劣化などの大きな原因になっていると指摘。食肉産業は、世界の温室効果ガス排出の約18%分を占めており、中国やインドなど経済成長が著しい国では肉消費量が増えることから、この比率はさらに高まると予想しています。
家畜を殺さなくて済む反面で人工肉を食べることに対する意識など倫理の問題、資源を大量に使わず必要な量だけ計画的に作れるという環境の問題、製造費コストという経済の問題、味の問題など、人工肉は問題が複合的に絡まりあっているような状態のようです。ただ、今後のことを考えると、少しでも選択肢を増やしておくことは重要といえそうです。